ある女性から「一日だけ、はさみを貸してください」と言われて、手持ちのはさみを貸しました。
一日ぐらいなら、それがなくても別にどうってことはなかったのですが、二、三日たってもはさみが返ってきません。
さすがに不便を感じることがあり、貸した人に返してもらわなくてはと思っていました。
やっと、その人に聞く機会がありましたので「はさみは、どうしましたか?」とたずねたところ、
「忘れていました。返そうと思っていたのですが…」という答えでした。
これを聞いて、その人に対してどんな印象を私が持ったのかは、想像がつくと思います。
この人は、自分の言ったことでさえも、守れないのだ。借りたものは返すのが当たり前、と思っているだけで、なかなか実行しない人なのだ。
すぐ返さなくても、貸した人は別段、困ることもないだろう、などと自分勝手なことを考えている人だ…。
ちょっとしたことをきちんと守る習慣ができていない人は、いくら着飾ってみても、人から好印象を持たれることはまずないでしょう。
本人がそのことに、いち早く気づいて、心を改めていけば、何の問題もないことです。
その女性は、はさみをすぐ返しに来たので、相手から言われる前に、自分から返すことを心がけるように、と伝えました。
ちょっとした約束ごとなのに、人はどうして守れなくなるのでしょうか。
おそらくそれは、子どもの頃には褒めてもらえたのに、大人になってからは、ちょっとした約束ごとをしっかり守り通してきたとしても、それは当たり前のことなので、高く評価してくれる人や感謝してくれる人がいなくなったからではないでしょうか。
もしそうなら、誰も褒めてくれなくても大丈夫です。
この次から自分が、当たり前のことを当たり前にやれたときは、自分で自分を、うんと褒めて上げればいいのです。
それじゃー、さびしいですか。
でも、当たり前のことを、当たり前にやることこそ、ほんとうは一番むずかしいことを、ほとんの人は知らないのですから、
このことの方が、よほど悲しいのではないでしょうか。