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うとましい道

 

百パーセント自分自身になりきった人間なぞ、いまだかつて存在したためしはない

これは、ヘルマン・ヘッセの「デミアン」(註)という本の中で語られる言葉です。

この本には精神性を高めてくれる興味深い内容が随所にあり、人生を真に支えてくれる数少ない作品のひとつではないかと思います。

 

この本でもうひとつ紹介したい言葉は、

人間にとって、まったく何がうとましいといって、自分を自分自身に連れて行ってくれる道をたどるほど、うとましいことはないのだ

です。

 

自分自身に連れて行く道とは安易な道のりではなく、様々な葛藤や悩みをくぐり抜け自己探求に取組んで行く道のことではないかと思います。

最後はその道をたどるしかないのはわかっていても、ずっとそれから距離をとっておきたいほど、うとましい道なのです。

 

なぜ、うとましく思うのか。

どこかわからないところへ連れて行かれるのではないかという、不安が心のすみにあるからなのかもしれません。

未知のことに対して、不安になってみたり恐れをいだくというのは、仕方ないことです。

 

自分自身に連れて行ってくれる道に、喜び勇んで歩む気が起こらないのも当たり前といえます。

逃げ出したい心境の自分をなだめすかしながら、うとましい道をたどるように自分を鼓舞していくのが、やっとのことではないでしょうか。

 

この「自分自身に連れて行く」という「自分自身」とは、思い悩む自分とは違い、いっさい迷いのない本来の自分自身のことです。

 

(註:浜川祥枝訳 1963年10月12日初版 中央公論社)